企業の方針を定める経営計画について~策定の手順や計画書作成のコツを紹介~
経営計画は「今どのような状況にあり、どこへ向かうのか」を明確にするための羅針盤のような存在です。
その内容をまとめた経営計画は、社員全員が同じ方向を向いて走るための指針となり、金融機関や取引先からの信頼を得るためのツールでもあります。
当記事ではこの経営計画について解説し、使える計画書を作成するためのノウハウをご紹介します。
経営計画とは?
経営計画とは、企業が目指す目標とそこに至るための道筋を具体的に示した計画のことです。
「頭の中で計画を描いている」と考える経営者の方もいるかもしれませんが、それを文書化することではじめて組織内の共有が可能となり、実行可能な計画となるのです。
なお経営計画には創業計画・事業計画・経営革新計画などさまざまな種類や呼び方がありますが、いずれもその根幹には「現状把握」「目標設定」「具体的な取り組み」の3つの要素があります。これらを論理的に組み立てることができれば、説得力のある計画書を完成させられるでしょう。
経営計画策定の必要性
経営計画を作成する最大の目的は「経営の可視化」にあります。
漠然とした経営方針だと社員は何をすべきかわからず、金融機関も融資の判断ができません。
これに対し、計画書として明文化しておくことで次のメリットが生まれるのです。
- 経営者自身の思考が整理される
・・・頭の中にある構想を言語化する過程で、矛盾点や実現困難な部分が明確になり、より現実的な戦略の練り直しにつながる。 - 組織全体の意思統一が図れる
・・・目標や戦略を社内で共有することで、部門もまたいで全社的に同じ方向を向いて動けるようになる。 - 外部からの信頼を獲得できる
・・・金融機関への融資申請や新規取引先との商談において、しっかりとした経営計画書は強力な武器となる。
そのため現状必要性を感じていなくても、一度経営計画書として構想を書き起こすことをおすすめします。
経営計画を立てる3つのステップ
はじめて経営計画を立てるという方は、次の3つのステップを意識すると良いでしょう。
ステップ1:現状を正確に把握する
経営計画作成の第一ステップは「自社の現状を客観的に分析すること」です。
ここで重要なのは、感覚ではなくデータで語ることです。そのために着手すべきは、売上・利益の内訳分析です。
商品・顧客・地域別など複数の切り口から分析して、「どこで利益を上げているか」「どの顧客が重要か」を感覚ではなく数値で把握しましょう。
たとえば、全商品の2割が売上の8割を占めているなら、その主力商品に経営資源を集中させるといった戦略も検討の価値があります。
次に、市場環境と競合分析を行います。
自社の商圏における市場規模はどの程度か、競合他社はどのような戦略を取っているのか、顧客のニーズはどう変化しているのかを調査します。
その際、既存顧客へのヒアリングや業界団体が公表しているデータ、政府統計などのデータも活用すると説得力が増します。
ステップ2:達成可能な目標を設定する
現状分析が完了したら、次は第二ステップの「目標設定」へと移りましょう。
ここでのポイントは根拠のある数値目標を立てることにあります。
多くの経営者が陥りがちなのが「売上倍増」「シェア日本一」など、ざっくりとし過ぎた根拠のない目標設定です。
このような目標は社員のモチベーションを下げ、計画の信頼性を損なってしまいます。
そこで、現状分析に基づいた積み上げ式の目標設定を行います。
たとえば「既存顧客の購買頻度を月1回から月2回に増やして、売上を50%増加させる」「新規顧客を月10件獲得して、年間売上を2,000万円増加させる」といった具体的な根拠とともに目標を示します。売上目標だけでなく、利益率・顧客満足度・社員定着率など多角的な指標を設定することも重要です。
また、目標設定は短期(1年)・中期(3年)・長期(5年)の時間軸で整理します。
短期目標は実現可能性を重視し、長期目標は経営ビジョンに向けた挑戦的な内容を含めても良いでしょう。
ステップ3:具体的なアクションプランを定める
目標も設定できれば、第三ステップとして「目標達成に向けた具体的な行動計画(アクションプラン)の策定」に取り組みましょう。
ここで重要なのは次のように分類される「5W1H」の明確化を意識することです。
- Who(誰が):各アクションの責任者と実行者
- What(何を):具体的なアクションの内容
- When(いつ):アクションの実施時期・スケジュール
- Where(どこで):アクションの実施場所や対象市場
- Why(なぜ):そのアクションを行う理由と期待効果
- How(どのように):アクションの実施方法と必要なリソース
たとえば新規顧客獲得という目標を掲げる場合、「営業部長が責任者となり、月○回の展示会出展と週○回のWeb セミナー開催を通じて、○ヶ月で○件の新規リードを獲得する」といった具体的なアクションに落とし込みます。
実効性の高い計画書を作成するコツ
経営計画を文書として形にしていくときのコツ、押さえておきたい重要なポイントを挙げていきます。
一貫性を持たせる
経営計画書全体を通じて「ストーリーに一貫性を持たせること」が大事です。
現状分析で明らかになった課題が目標設定に反映され、その目標を達成するためのアクションが論理的に組み立てられているか、を確認しましょう。
たとえば、現状分析で「若年層の顧客が少ない」という課題が見つかったから目標に「30代以下の顧客比率を○%から○%に引き上げる」と定め、アクションプランにも「SNSマーケティングの強化」「若者向け商品の開発」を含めた、といった流れなら自然です。
反対に、前後の関係が連動しておらず一貫性のない計画書になっていると信用を欠いてしまうでしょう。
根拠のある数値目標を設定する
売上・利益計画など数値で表現する計画は、単なる願望となってはいけません。具体的な積み上げを経て作成しましょう。
そのためにも、既存顧客の維持率・新規顧客の獲得数・客単価の向上率などの各要素を分解して計算していきます。
なお、収支計画だけでなく資金繰り計画も忘れずに策定すべきです。売上が増加しても資金が回らなければ事業は継続できません。
売掛金の回収サイクルや在庫の回転率、設備投資のタイミングなどを考慮した計画を立てましょう。
社外の専門家を活用する
経営計画書を作成するとき、とりわけ経営者としての経験が浅い場合は、社外のリソースも積極的に活用しましょう。
企業経営の支援をしてくれる機関として、たとえば商工会議所や商工会、税理士や会計士、経営コンサルタントなどがいます。補助金や助成金などを活用する場合は公的機関に相談するのもおすすめです。経営計画書の作成が効率的に進められるほか、計画内容の質が向上することも期待できます。
あらかじめ自社の課題について考えておくことで「何を専門家に支援して欲しいか」が見えてくるでしょう。