黒字倒産を防ぐ!キャッシュフローの考え方や資金繰りの重要性について
売上は好調で損益計算書上も利益が出ているのに「なぜか手元の現金が足りない」と悩んだ経験はないでしょうか。
利益が出ていても資金不足で事業を続けられなくなる「黒字倒産」をしてしまう例もあるため注意してください。
黒字倒産を防ぐには、資金繰りやキャッシュフローに意識を向けて経営を行う必要があります。
黒字倒産はなぜ起こる?
黒字倒産とは、損益計算書上だと利益が出ているにもかかわらず、手元の現金不足により事業が継続できなくなり倒産することを意味します。
「利益が出ているのにどうして」と思われるかもしれませんが、その大きな要因は売上と現金化のタイミングのずれにあります。
たとえば 1,000万円の売上が出ても、それが実際に現金として入金されるまでには時間がかかります。売掛金として計上されている期間中も、仕入れ代金や人件費、家賃などの支払いが続きますので、そのタイミングのずれが大きいほど、売掛金の額が大きいほど、黒字倒産のリスクは上がってしまうのです。
また、在庫の増加も黒字倒産の原因となります。在庫は将来の売上のために必要ですが、在庫を仕入れるために支払った現金は、その商品が売れるまで回収できません。つまり、在庫が増えれば増えるほど、現金が寝かされるような状態となります。
設備投資も同様で、事業拡大のために機械や車両を購入した場合、その支払いは即座に行われますが投資の効果が現金として返ってくるまでには時間がかかります。そのため手元資金が不足するリスクが上がってしまいます。
キャッシュフローとは何か
黒字倒産を防ぐ、未然にリスクを把握するうえで重要な概念が「キャッシュフロー」です。これは文字通り「現金の流れ」を意味する用語です。
キャッシュフローに意識を向けることで、事業活動における現金の入りと出の状況が時系列で把握できるようになり、その結果将来の資金不足の予測と対策が立てられるようになります。
その観点からまず理解しておきたいのが「売上や利益といった会計上の数字と、実際の現金の動きは必ずしも一致しない」という点です。
たとえば、 4月に 1,000万円の売上を計上しても、その代金が入金されるのが 6月であれば、 5月末時点でも現金は増えていません。 1,000万円の売上を出すために仕入れで 500万円、人件費で 100万円かけても利益は 400万円残りますが、 6月の入金までは 600万円の支払いに耐えられる資金を持っていないといけないのです。
営業キャッシュフローについて
キャッシュフローには大きく分けて 3つの種類がありますが、もっとも重要なのが「営業キャッシュフロー」です。
これは本業から生み出される現金の流れを示すもので、企業の健全性を判断する重要な指標として機能します。
- 営業キャッシュフローがプラス・・・本業で現金を生み出せていることを意味する
- 営業キャッシュフローがマイナス・・・本業で現金を消費していることを意味する
そのため営業キャッシュフローがマイナスという状況は、黒字倒産の前兆といえるでしょう。
なお、営業キャッシュフローは利益に対して以下のような要素を加えて調整します。
- 売掛金の増減(増加はマイナス、減少はプラス)
- 在庫の増減(増加はマイナス、減少はプラス)
- 買掛金の増減(増加はプラス、減少はマイナス)
- 減価償却費(現金支出を伴わない費用のためプラス)
これらの要素を定期的にチェックしていくことで、資金繰りの問題を早期に発見できるでしょう。
投資キャッシュフローと財務キャッシュフローについて
営業キャッシュフローのほかに「投資キャッシュフロー」と「財務キャッシュフロー」があります。
投資キャッシュフローは、設備投資にかかった現金、有価証券の売買に関する現金など、投資活動に関わるキャッシュの流れを表します。
成長期の企業では設備投資により投資キャッシュフローがマイナスになることが多いですが、それ自体は必ずしも悪いことではありません。
ただ、営業キャッシュフローでその分を賄えない場合は資金繰りを悪化させるリスクにつながるため注意が必要です。
財務キャッシュフローは、借入の増減や配当金の支払いなど資金調達に関する現金の流れを意味します。資金不足を借入で補う場合はプラス、借入金を返済する場合はマイナスとなりますので、これがマイナスになっていたとしても、返済により健全化が進んでいると考えることができます。
以上 3つのキャッシュフローを総合的に見ることで、企業の資金の流れを包括的に把握できるようになるでしょう。
キャッシュフロー計算書で情報を整理
キャッシュフロー計算書は、①営業活動②投資活動③財務活動の 3つの区分で現金の流れを示す財務諸表の一種です。
多くの中小企業に法的な作成義務はありませんが、これを作成することで情報が整理され、キャッシュの流れが把握しやすくなります。
簡単に作成手順を紹介します。
- 営業活動に基づくキャッシュフローを計算
- 損益計算書の税引前当期純利益から出発する
- この利益に対して、減価償却費や売上債権や棚卸資産、仕入債務などの増減を加えていく
- 投資活動に基づくキャッシュフローを計算
- 設備投資(機械の導入など)や投資有価証券(子会社や関連会社の株式、長期保有の債券など)の売買など、投資に関する現金の流れを集計する
- 財務活動に基づくキャッシュフローを計算
- 資金調達や返済に関わる現金の流れを記録する
- 借入による収入をプラス、返済による支出をマイナスとする
- 社債の発行はプラス、配当金の支払いはマイナスとする
- 現金および現金同等物の増減額の確認
- 3つの活動によるキャッシュフローを合計する
- この合計額に期首の現金残高に加えることで現状使える資金が把握できる
毎月記録していくことで資金の流れのパターンも把握できるようになり、将来の資金需要も予測しやすくなります。
会計ソフトを使用していればキャッシュフロー計算書の作成も簡単にできますので、活用してみると良いでしょう。
資金繰りの重要性と実践方法
キャッシュフローが把握できれば、必要に応じて黒字倒産を防ぐため、資金繰りを進めていく必要があります。上述のとおり損益と資金繰りは別物であり、利益が出ていても安心はできません。目先の売上にとらわれることなく、数ヶ月、半年以上先の資金繰りを常に意識して活動しましょう。
資金繰りを改善するうえで効果的な、基本的な手法は次のとおりです。
資金繰り改善に向けた基本的な施策 | |
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売掛金の回収期間の短縮 | 売掛金の回収期間を短くすることが効果的。支払条件を見直し、請求書の発行を早めるなどの対応に努める。また、与信管理を強化して回収リスクの高い取引先への売上を制限することも検討する。 |
在庫の最適化 | 過剰な在庫は資金を寝かせる要因となる。慎重に需要予測を行い、適正な在庫水準を維持すべき。その際、在庫の回転率の低さにも着目する。 |
支払いサイクルの最適化 | 仕入先との交渉により、支払い条件の改善を図る。ただし無理に支払いを延期するのは信用を損なうリスクがある。 |
固定費の見直し | 家賃やリース料、保険料などの固定費を定期的に見直し、削減の余地がないか検討する。売上が減少している時期では固定費の負担が資金繰りを圧迫する大きな要因となる。 |
金融機関との関係性構築 | 金融機関とのコミュニケーション、取引やそれに伴う情報開示などを通じて良好な関係性を築いておくことが重要。資金不足で困ったときの助けとなる可能性がある。また、 1つの金融機関に依存せず、複数の取引先を確保しておくことでリスクは分散できる。 |
黒字倒産のリスクがあると思われる企業では、キャッシュフローの把握や資金繰りを意識しながら活動することが大事です。
改善に向けては大きな意思決定が必要になることもありますが、一度専門家にチェックしてもらうことで精度の高い決断が下せるようになるでしょう。