大法人の電子申告の義務化|対象法人や申告方法について
国税に関して2004年から電子申告制度が導入されており、直接税務署に持参しなくてもオンラインで申告手続を済ませられるようになっています。便利な制度ですが、デジタルに慣れていない事業者だと従来の書面提出をそのまま続けているというケースも珍しくありません。
しかしながら、規模の大きな法人は電子申告が一部義務化されています。そのため各社、「自社は電子申告の義務化対象なのか」「電子申告はどうやってするのか」について知っておく必要があります。
電子申告制度の概要
デジタル行政推進法に基づいて電子的に税の申告を行うことを電子申告と呼びます。国税に関しては、国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令によってe-Taxの利用が可能となり、実務上はこのシステムを活用して電子申告や電子申請などを行っています。
e-Taxの運用ははじめ利用率も低かったのですが、今では多くの方が利用するシステムとなっていて、個人のみならずさまざまな法人も有効活用をしています。
電子申告の義務化について
電子申告はあくまで任意に行うものであって、強制されるものではありません。しかし、2020年4月以降は大法人に電子申告等の義務が課されています。国税や地方税、社会保険に関する申告や申請について、一定の法人に電子的に行うことが求められていますので注意が必要です。
国税の電子申告義務
2020年4月以降の事業年度開始時点において「資本金の額または出資金の額が1億円超」に該当する大法人は、電子申告が義務とされています。
電子申告が義務化されていることに気づかなかったとしても、当該大法人が法定の期限までに電子申告をせず書面で申告をしたときは、その申告書は無効なものとして扱われてしまいますので注意しなくてはなりません。
この場合は一般的な無申告と同等に扱われるため、無申告加算税を課されるリスクもあります。
国税に関する大法人の電子申告義務化の概要 | |
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電子申告が義務となる税目 | ・法人税、地方法人税 ・消費税、地方消費税 |
対象となる書類 | ・確定申告書 ・中間(予定)申告書 ・仮決算の中間申告書 ・修正申告書 ・還付申告書 ・その他申告書に添付すべきすべての書類 |
例外規定 | 通信インフラの故障や災害などによりe-Taxを使うことができなくなった場合には、税務署で事前に承認を得ることを要件に、書面で申告を行うことができる。 |
申告書だけでなく、添付書類についてもすべてe-Taxで提出しないといけないことに注意しましょう。
なお、従来は申告書の提出はe-Taxで行い、財務諸表などを別途郵送するなどの対応を取っていた法人が多かったのですが、すべてを電子申告しやすいように緩和措置が取られています。勘定科目内訳明細書の簡素化、PDFファイルで送信した添付書類に関する書面保存の不要化、財務諸表等のデータ形式の柔軟化など、電子申告がしやすいように制度が整えられていますので、義務化されていない中小企業もこの機会に電子申告への対応を考えてみると良いかもしれません。
地方税の電子申告義務
地方税に関しても国税同様に電子申告が一部義務化されます。
2020年4月以降の事業年度開始時点において「資本金の額または出資金の額が1億円超」に該当する大法人が電子申告義務化の対象です。
地方税に関する大法人の電子申告義務化の概要 | |
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電子申告が義務となる税目 | ・法人と道府県民税 ・法人事業税、特別法人事業税 ・法人市町村民税 |
対象となる書類 | ・確定申告書 ・中間(予定)申告書 ・仮決算の中間申告書 ・修正申告書 ・その他申告書に添付すべきすべての書類 |
例外規定 | 通信インフラの故障や災害などによりeLTAXを使うことができなくなった場合には、提出先となる地方公共団体の長に対して申請を行い、事前に承認を得ることができれば書面で申告を行うことができる。 ※国税に関して書面による申告書提出が承認されている場合は別途地方公共団体から承認を得る必要はない。 |
地方税の場合、使用するシステムがe-TaxではなくeLTAXである点は相違しますが、電子申告によらなければ不申告であるとしてペナルティの対象になりますし、添付書類などもすべて電子申告しないといけない点なども国税における義務化と共通しています。
社会保険の電子申請義務
税ではありませんが、社会保険に関する電子申請についても2020年4月以降は義務化されています。
義務化の対象とされているのは「事業年度開始時点において資本金が1億円超」の法人です。
社会保険に関する大法人の電子申請義務化の概要 | ||
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電子申請が義務となる社会保険 | ・健康保険 ・厚生年金保険 ・労働保険 ・雇用保険 | |
対象となる書類 | 健康保険・ | ・被保険者報酬月額算定基礎届 ・被保険者報酬月額変更届 ・被保険者賞与支払届 |
労働保険 | 継続事業を行う法人による次の書類 ・年度更新に関する申告書(概算保険料申告書、確定保険料申告書、一般拠出⾦申告書) ・増加概算保険料申告書 | |
雇用保険 | ・被保険者資格取得届 ・被保険者転勤届 ・被保険者資格喪失届 ・育児休業給付支給申請 ・⾼年齢雇用継続給付支給申請 | |
例外規定 | 通信インフラの故障や災害などにより電子申請ができない場合には書面での申請が認められる。 また、労働保険関係⼿続(保険料申告関係)に関しては次の場合にも書面での申請が認められる。 ➀労働保険事務組合に事務が委託されている ②単独有期事業を⾏う ③年度途中に保険関係が成⽴しており、その成⽴から50日以内に申告書を提出する |
税金ほど厳しく取り締まりはされておらず、現状、書面で申請書等を作成して提出しても罰則は適用されません。しかしながら今後、より電子申告の流れが進んでいくと、書面申請が受け付けられなくなるなど厳格化されていく可能性も考えられます。そのため今のうちに電子申請の体制を整えておくことが望ましいです。
電子申告のやり方
e-Taxに対応したソフトウェアをインストールすることで電子申告ができるようになります。国税庁から無料で提供されていますので、これを取得しましょう。Webブラウザから基本機能を使うことができる「Web版」やスマホ向けに提供されている「SP版」などもありますが、利用可能手続がこれらだと制限されています。申告や申請に幅広く対応するには「ダウンロード版」を入手する必要がありますので留意しましょう。
また、e-Taxを使って申告書等のデータを送るとき、改ざんされていないことなどを確認するために電子署名を付す必要があります。そして電子署名を付与するには電子証明書を取得しておかなければなりません。さらに「利用者識別番号」の取得も欠かせません。
電子申告をする場合はこの事前準備が必要です。e-Taxの利用を始めることを開始届出書により税務署へ通知し、これを受けて納税者の利用者識別番号が提供されます。
地方税の場合は地方税ポータルシステムである「eLTAX」を使います。この場合も国税とおおむね流れは同じで、まずはeLTAXに対応したソフトウェアを準備します。「PCdesk」と呼ばれる無料のソフトウェアが提供されていますので、これをダウンロードします。電子証明書の取得、利用届出の提出、利用者IDの取得が必要である点も共通しています。
なお、法人自身で対応しなくても電子申告は可能です。顧問税理士に頼んでおけばこうした面倒な手続なども楽に進められるでしょう。大法人においても安心して電子申告の義務を果たすことができます。